年金半額に反対の声があるが、子育て中のシングルマザーは全額免除なら半額になる運命
年金は、今まで育児や介護期間中の配慮がなされたり、離婚時年金分割制度が作られたりと、改正されつつ来ました。
しかし、依然として3号被保険者に対しては検討ばかりで、改正されずに残っています。(3号特例納付制度はさらに手厚い保護になっているためここでは省きます)。
平成20年7月11日に「社会保障審議会年金部会におけるこれまでの議論の整理」について
がまとめられています。
厚生労働省のページ
参考:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/s0711-6.html
10年以上前の審議から同じような問題が指摘されていることがわかります。
この時のまとめに載っていた意見をピックアップします。
3 号は家事負担があるというが、働いている人も家事負担をしているため、これを理由にするのではなく、子育て・介護など、この期間に何かサポートをしないと就労が難しいというところへ支援するということの方が合理的。
夫の所得が高い世帯の方が妻は無業者が多く、3 号が適用されている。このため、公平性の面からは、低所得世帯が高所得世帯を支えているという逆進性の問題があるのではないか。
1 号で保険料を納めてきた女性からすると、3号は高収入でありながら保険料負担がないという人が多く、不公平感あり。また、低収入の2号が高収入の専業主婦の保険料を払っているという不公平があるなど、個人単位化という方向を検討すべき。
働く女性の不公平感や、収入のない学生も保険料を負担している現状との整合性を考えると、第 3 号被保険者にも保険料を負担させるべきではないか
子育て期間に対する支援として、現在の学生納付特例制度のようなものを子育て期間中に適用するなど、このあたりも含めて 3 号問題を議論すべき。いきなり 1 号として保険料を払うのも難しいだろう。
3 号問題については、国民年金保険料は自ら負担して、子育て期間はその負担を控除するというのが正論。
若者・女性の働き方に非正規が増えていることを背景として、雇用者なのに厚生年金に加入できない人々が増えている。その原因の一つに 3 号制度があるのではないか。女性の働き方・生き方に中立的な制度に作っていくべき。
女性は子どもも産み、仕事も続けてもらわないと、労働力は維持できないということについて広く合意が得られていると考えられるが、こう したワーク・ライフ・バランスの進展を抑制しないよう 3 号制度は見直しが必要。
(なお、「ダグラス・有沢の法則」が日本に当てはまるかどうかについては、
以下の、財務総合政策研究所の「ファイナンス」2015年4月号に記載あり。
参考
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2015_04.pdf
日本では、「ダグラス・有沢の法則」が現在でも成立している。ダグラス・有沢の法則とは、夫 の収入が高いほど妻の就業率が下がる現象であ り、夫の収入の高さが妻の就業抑制要因であることを示唆する法則である。
高齢者との世代間格差について(同世代の女性同士の格差とは別に)
このような年金の不公平をいうと、必ず出てくるのは、高齢者のほうが優遇されているという点です。その点に少しだけふれます。
今の高齢者が優遇されているというのは、一概には、言えません。年金は今の高齢者の親世代は、制度が不十分だったからです。
私的扶養から、公的扶養になったという側面があります。
今の高齢者の若い頃は、「自分たちの生活+親を扶養」
1980年以降生まれは、「自分たちの生活」だけで「親は年金で生活」が一般的だからです。
年金だとイメージしにくいですが、介護保険が始まる前と、始まってからを、イメージしてもらえばわかるかなと。個人がお金を使って介護していた時代から、介護保険でまかなう時代になったように、です。
私的扶養、自分の親は子どもがお金の面倒見る⇒公的扶養、年金で高齢者は生活してもらうに、変化。
私的扶養には限界があって、世の中全員が子どもに恵まれるわけでもなく、子がいても子が親の金銭的援助をできる人ばかりでもありません。
それを年金として高齢者の生活費を支えることになったのです。
例えば、1940(昭和15)年生まれの人の親の多くは、低額の老齢福祉年金くらいしかありませんでした。現在の高齢世代は、若い時は私的に親を扶養しながら、なおかつ、自分たちの保険料を納めてきたという経緯があります。
ほぼ自分の親の生活費の面倒をみながら、自分の年金保険料を払ってきた世代なのです。
それに対して、1980(昭和55)年以降に生まれた人の親は、現在の年金制度、すなわち保険料納付実績に応じて支給される年金を受給していることから、扶養のための経済的負担は上の世代よりずっと軽いのです。
昭和55年以降に生まれた人で、親の年金が全く出てなく、自分が親の生活を見ているという人は、親が年金保険料を滞納しまくった人でしょう。免除の申請していなかった人。
ほぼ自分の親の生活費を負担することなく、今の30代、40代、50代は暮らしていけます。
それに新幹線だの、ダムだの今の社会インフラは、高齢者たちのお金で作ったようなものです。
この件に関しては、年金アドバイザーのhirokiさんが説明しているページがわかりやすいので、一度、読んでみてください。その中から、一部、引用します。
破綻している年金制度はやめちまえ!で本当に撤廃したらどうなる? - まぐまぐニュース!
今の高齢者は恵まれてるってよく言われますが、今の70代80代とかの人達って、高齢になった親世代を扶養しながら自分達の家庭を守りながらやってきた人達です。
当時の人達はそうやって高齢になった親世代を扶養しながら生きてきた人達なので、一概に世代間の不公平がありすぎるとも言えない。例えば1980年以降くらいに生まれた人(だいたい親が今60~70代前後になる人)が私的に親世代を扶養というのはほとんど無いですよね。
ということで、本題の専業主婦の問題に。
無職の専業主婦は、年金保険料を払っていないのか?
本来の年金制度は、全員が保険料を払う制度なのに、夫(専業主夫なら妻)が会社員など厚生年金に加入できる人のみ、保険料を負担しなくても年金がうけられる例外が続いているのです。
たしかに、子育ても、介護も立派な仕事です。
女性に押し付けて、という意見もありますが、その一方で、同じように子育て、介護中の専業主婦でも払っている人もいるのです。
3号被保険者は、夫(または、妻)が2号被保険者であればいいのですから、中には、20歳で結婚して、その後、ずっと専業主婦(主夫)だったら、40年にわたって、60歳まで支払う保険料は0円、ということもありえます。
子育てや介護とは関係なくても、払わなくていいわけです。
40歳だろうと、50歳だろうと、ずっと0円のままです。
- 夫がフリーランス、非正規などのために低収入だから夫婦で働かないと生活がやっていけない人(この場合は、2号となっている可能性もあり)、
- 夫が低所得でもフリーランスや零細の自営業のために3号になれない主婦=1号の主婦、
- シングルマザーで夫と離婚したために、国民年金1号の人(子どもが小さいと、非正規、内職の可能性あり)
こそ、配慮が必要に感じます。
特に、シングルマザーは、子育てしながら、ですから、働く場所や時間も限られるでしょう。年収も高くないことは、統計でもわかります。
また、老後の年金を考えてみても、一方は、「夫の年金+妻の年金」で生活できるのに、シングルマザーは、「自分の年金」だけです。
夫とは離婚ですから。
そのうえ、免除を繰り返していたり、せっかく厚生年金に加入できても低賃金なら、それに連動して、受け取る年金額も低いでしょう。
専業主婦は立派な仕事だが、年金保険料を払わなくていいのは、2号の配偶者のみ
さて、3号被保険者の保険料は誰が払っているかについてふれておきます。意外と誤解されている人もいるようなので付け加えます。
保険料は夫が払っているだとか、世帯で払っているだとか、国保かなにか別のものか、なにかと勘違いしている人もいます。
3号被保険者の保険料は、「2号被保険者全員」で払っています。
2号全員ですから、そこには、独身男性、独身女性、共働き女性も含まれています。
結婚しても、していなくても3号のために払っています。
国民年金加入中のシングルマザーも、
子育て、介護中の専業主婦も夫が1号被保険者なら
自分の年金保険料は払います。
国民年金は、
学生も払っています。
無職の人も払っています。
もちろん、学生なら学生納付特例制度を利用するでしょうし、無職なら、免除の申請するでしょう。
また無職でなくとも、世帯が低収入の場合、免除の申請をするかもしれませんが、全額免除の申請が認められたら、保険料は「払わなくてもいい」のですが、受け取る年金額は、減額され半分になります(全額免除の例)。
免除の申請をして、全額が免除になっているのですから、全額納めている人と同じ金額は受け取れません。
それに対しても3号被保険者はまったく払わなくても、基礎年金を減額されずに「全額」もらえます。
夫が会社員などで、3号になれる人は、保険料の負担がなく、その一方で、保険料を納めている人がいる。
そして3号の人と納付済み期間が同じなら、同じ金額の年金を受け取ります。
ここで、同じ会社で働いていた2人の女性を考えます。会社勤めですから、2号被保険者です。
仮に、25歳で5歳年上の男性と結婚して、退職し専業主婦になったとします。
話を単純にするために、現在の年金保険料で計算します。
平成31年度の保険料は、16、410円として、
25歳以降35年で、総額6,892,200円に。
自営業など1号の夫をもつ1号の専業主婦
20歳から25歳まで、厚生年金保険料の総額の支払い
25歳以降 保険料6,892,200円支払い
2号の夫がいて、自分は3号の専業主婦
20歳から25歳まで、厚生年金保険料の総額
25歳以降 保険料0円
これほどまで、支払う年金保険料は違います。
実は、ふたりの女性の受け取りは、同じ年金額になります。
受け取る年金額は、2階建てですが、厚生年金の部分も同じ設定だからです。
同じ会社で同じ給与という前提なので、厚生年金の部分は同額になります。
40年支払った(一方は3号期間は払っていませんが)基礎年金部分も同じです。
結婚後、夫が1号のままだったら、700万円ほど保険料を支払うのに対して、
一方の3号だったら、年金保険料は0円のままです。
それでも受け取る年金額は、同じという結果です。
ここで、余談を。
このような議論では、年金を株で運用して溶かしたから、年金財政が悪化したというデマがでてきますが、運用に回っているのは、1割程度ですし、「年金給付に影響を与えません」ということです。
そのうえ、損失どころか、利益がでています。
GPIFのページより
https://www.gpif.go.jp/gpif/pension-finance.html
その年の保険料収入と国庫負担で9 割程度が賄われており、積立金から得られる財源(寄託金償還又は国庫納付)は1割程度です。年金給付に必要な積立金は充分に保有しており、積立金の運用に伴う短期的な市場変動は年金給付に影響を与えません。
GPIFが2001年度に市場運用を開始して以降の累積収益額は、2018年12月末時点で56.7兆円、平均収益率は年率+2.73%になります。年金積立金の運用は長期的な観点から行っており、収益は市場環境により短期的には変動しますが、長期で見れば年金財政の安定に貢献しています。https://t.co/CsIcXrfFN7 pic.twitter.com/eRdjffhGx6
— GPIF (@gpiftweets) 2019年5月7日
GPIFは長期的な観点から年金積立金の運用を行っており、2018年度第3四半期(10-12月)の利子・ #配当 収入(インカムゲイン)は、8,462億円となりました。2001年度に市場運用を開始して以降のインカムゲイン累積額は、33兆3,195億円です。 https://t.co/CsIcXrfFN7 pic.twitter.com/xKwp8Wjc0I
— GPIF (@gpiftweets) 2019年5月9日
このように利益が出ていますから、年金財政悪化は、株で運用して溶かしたから、というのは、デタラメなことがわかります。
閑話休題
専業主婦であっても1号被保険者は、保険料を払い、払えないときは免除の申請
さて、1号被保険者は、所得が低いなど生活が苦しい場合免除の申請をすれば、いいのですが、受け取る年金はカットされます。
夫が厚生年金に加入できない人なら、専業主婦で子育てしていても、介護中でも、支払いはあります。
そこが、保険料を払わなくても基礎年金をカットされない3号被保険者との違いです。
私としては、令和の時代は、個人単位で考える時期に来ていると思います。
夫が、会社員だろうと、なかろうと、1号専業主婦であろうと、3号専業主婦であろうと、個人で支払って、個人で給付を受けるということです。
そのひとつの案として、全員年金保険料は支払うことにして、育児や介護の期間中は、学生納付特例制度のような制度があってもいいように思います。
個人単位で年金給付を考えるとなると、統計的に低賃金となっている女性、男女の賃金格差も是正されないといけないでしょう。
しかし、内職など低賃金で子育てしながら働いているシングルマザー(子どもが病気の時などに面倒をみてもらえないなどの理由で外で働けない人もいる)を現状のままでおくのも問題です。
政治家も手をつけようとしない、3号被保険者の制度はこのままでいいとは思えないのです。
保険料を滞納したために、障害年金を受給できなかったという事例はよく聞ききます。先日もツイッターで流れていました。
男女を問わず1号は、年金保険料を払わないで、滞納するとこのようなことが発生します。
そうならないように、免除を申請します。
しかし、1号で免除が認められたら、老齢年金としてもらうときは、減額されます。なぜなら、年金保険料を全額払っていないから。
同じように年金保険料をまったく払っていないのに、「厚生年金に加入できる配偶者」がいる3号被保険者は、まるまる全額もらうことができます。
1号のシングルマザーは、免除を申請したら、半額になるのに、3号は半額にならない。
3号は半額になるかも、という報道があるだけで、猛反対です。
老後は夫がいないかもしれないシングルマザーは、「半額になるかも」ではなく、全額免除を申請したら、半額です。
これは女性に限りません。低所得の男性だって同じです。全額免除を申請して認められたら、年金は減額です。
1号は、年金保険料を払う払わないが、もらう年金額に関係するのに、3号だけは優遇されたままです。
なお、1号の女性であっても平成31年4月から出産前後の一定期間、国民年金保険料が免除される制度が始まりました。今年からやっとはじまりました。
出産予定日又は出産日が属する月の前月から4か月間の国民年金保険料が免除されます。
参考
これも2号被保険者として働いている女性よりは、見劣りしますが、一歩、前進です。
2号被保険者の女性は、以下のような扱いになります。
日本年金機構のページ
満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業及び育児休業に準じる休業)期間について、健康保険・厚生年金保険の保険料は、事業主の申出により、被保険者分及び事業主分とも徴収しません
産前産後休業期間(産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間)について、健康保険・厚生年金保険の保険料は、事業主の申出により、被保険者分及び事業主分とも徴収しません。
既得権益は守りたい!というのは、どこかの業界や、天下りの役人だけでなく、3号の専業主婦も同じことです。
3号のみなさん、既得権益を離して3号制度を考えてみませんか。たとえば、学生納付特例のようにできませんか。子育てや介護は、60歳になるまで、ずっとしているものですか。
あなたたちとまったく同じ状況で子育て中、介護中でも、1号の女性は払っています。
国民年金加入のシングルマザーは、3号と同じように支払いを全額免除してもらったら、もらう年金額は半分です。