年金は決めたらほったらかしというわけではなく、5年に1回、財政検証というものをします。
国民年金、厚生年金の財政についての検証です。
年金というと老齢ばかり話題になりますが、現役世代でも障害年金や遺族年金を支給されている人もいることでしょう。遠い先の話、ではない人もいるのです。
次回の財政検証にむけて(令和6年とのこと)厚生労働省では現在社会保障審議会が開かれています。
今までは20代くらいの人たちは、財政検証が行われていることも、それ以上に年金について知らなかったことと思いますが、今回、若い人たちに話題となったのは、たかまつなな氏がこの社会保障審議会年金部会の委員になったことです。
20代が年金の審議会の委員になったことは、私の知るかぎりなかったと思います。
おそらくマスコミ報道や、年金は破綻するといって営業をする人たちの煽り文句などから誤解されている部分が多かったのでしょう。
たかまつなな氏も年金部会の委員になってから猛勉強をしていると言っていたそうなので、今の若者世代は年金について詳しく勉強しないで、ネットに書いてあることをそのまま鵜呑みにしている人が大部分だと思います。
年金関係の審議会では、年金制度を正しく理解してもらうための広報や啓発活動が必要だと何度も言われいますが、深く知るには年金制度の歴史や法律のこともあるのでなかなか難しいと思います。
数時間勉強すれば終わりのラクラク年金講座で勉強したというわけにはいかないのです。
話は戻って審議会ですが、社会保障審議会年金部会の議事録は、開催後しばらくすると公開されます。
今回は、自分の備忘録を兼ねて、第三回社会保障審議会年金部会の発言をピックアップしたいと思います。
なお、議事録自体は興味のない人には、長すぎなのですが、今回のたかまつなな氏の発言は、議事録最後のほうに載っていますので、ザーッと最後のほうまでスクロールすると探せると思います。
ということで、今回は若者と年金、についてある程度絞って書いておきます(自分の備忘録も兼ねる)。
令和5年5月8日の第3回社会保障審議会年金部会
第3回の議題は、「第1回及び第2回年金部会における主なご意見について」、そして「令和2年年金制度改正法等において指摘された課題について」となっていました。
この社会保障審議会年金部会に、たかまつなな氏が入ったのは第2回以降からのようです。
それで、別の議員からの指摘で、前回(第2回)のたかまつなな氏の発言が取り上げられていました。
その前にたかまつなな氏は、若者目線での年金についての発言がされていました。
要望として、「教育」が必要だということです。
たかまつなな氏は、
「年金をしっかり調べると破綻するという考えは考えにくいと思います。若者については、そのように考えている人が多いということが私は非常に問題ではないかと思っております」
「しっかり調べると」となっています。そうすれば破綻するという考えにはならないということです。
しかし、現状年金の教育がないので、ネットでの言説を信じることでしょう。
このときも若者の年金の認識として例があげられ(誤解が多いですが)、
「いくらもらえるのかわからない」
「年金要らないから自分で積み立てさせてほしい」(自分がもし90歳、100歳まで生きたら積立だけで済むとは思えないのですが、こういう話はよく聞きます)
「年金はなくなりませんという方便はやめたほうがいい」
なかには、会社の新人研修で、年金はどうなるかわからないから貯金したほうがいいということまであったそうです。
広報という位置づけではなく、「教育」としてやっていかないと年金不安は収まらないということです。
2点目に、若者や子どもの意見を聞く機会がほしいとのこと
「政府の広報の資料や具体的に教科書などを見てもらって、どういうところが具体的に分からないのか、そのような意見をもらうような機会があるといい」
3つ目に若者の場合、現在のモデルケースに当てはまらない場合も多く、フリーランスになったら、学び直しして一回仕事を辞めたら、など自分の年金がどうなるかを知らない人が多い。
そこでモデルケースを複数用意したほうがいいという意見でした。
「新しいパターンを何パターンか提示されるだけでも、自分はこのパターンに近いから将来このくらいもらえるのかな、では、年金が破綻するという考えではなく、自分のライフプランはこういう形にしていこうかなという具体的な自分の人生設計につながるのではないか」
さて、第2回の時のたかまつ氏の発言について意見が出たのは、その後の是枝委員の発言の時にです。
「第2回年金部会でたかまつ委員が発言した、年金制度を持続可能なものにするため、今余裕がある人の分はカットして将来世代に回すという部分について意見を述べます」
として始まりました。
簡単に言えば、年金制度を続けていくには、今の高齢者の年金をカットすればいい、という発言があったわけです。
是枝委員の指摘は、
1点目は、「現状において年金制度が持続可能でないとする評価が妥当なのか」です。
年金のことを勉強したことがない若者が年金は破綻するというのならまだしも、この審議会に参加する委員として年金制度が持続できないという評価でいいのか、という指摘です。
是枝委員は「出生率の低下などを含めても年金制度そのものの持続可能性が危ぶまれるような状況ではないというのが私の認識です。もし、たかまつ委員として異なる経済見通しに基づいて年金制度が持続可能でないと評価するのであれば、ぜひその根拠を教えてください」聞いていました。
すなわち、年金制度は持続できない、破綻するという認識ではなく、持続可能性が危ぶまれるほどの状況にはなっていない、ということでしょう。
2点目については、
「社会保険方式の年金制度は拠出に応じた給付を受けられるのが大原則であり、過去の拠出実績に基づく年金給付額をいたずらにカットすることはできないということです。もちろん年金制度に再分配を組み込むことはできますが、その際にはどのような問題に対処するために、どのように給付を調整していくべきかを丁寧に制度を設計して議論して、国民に伝えていかなければなりません」
要は年金をいっぱいもらっているからカットすればいいではなく、出した保険料に応じた給付を受けられる、というが大原則、ということです。
保険制度ということを考えてみても、いきなり大幅カットということはできないのです。
例えば年金支給が60歳から65歳に引き上げられたのも、これだって12年かけて徐々に引き上げられました。1歳ずつ徐々にです。
いきなり来年から65歳まで年金もらえないよ!とはならなかったのです。
もちろん、世代間のことを放置していい、というわけではなく、それなりの措置がなされているのです(Twitterでは、高齢者はもらい逃げのように言われているが)。
その点についての説明もありました。
「現在の日本の年金制度では、世代間の再分配の仕組みとしてマクロ経済スライドが既に組み込まれております」
「マクロ経済スライド」世代間の再分配の仕組みですね。
なぜ日本ではこれを導入してるのか?
先進国では少子高齢化社会なので、年金財政の調整がなされていますが、「保険料の引き上げ」や「支給開始年齢の引き上げ」が各国で行われています。
そのようなやり方での世代間の調整には問題があって
「しかし、これらは既に年金を受給している人には痛みがなく、これから保険料を払う人、これから年金を受け取る人にだけ痛みを押しつける形となります。
日本では2004年の制度改正により、今後は現役世代や将来世代だけに痛みを押しつけるのではなく、既に年金を受給している世代も含めて全ての世代で平等に痛み分けをしていこうと決め、その自動調整の仕組みとしてマクロ経済スライドを導入いたしました」
「既に年金を受給している世代を含めてすべての世代」で「平等に痛み分け」
しているのです。
「今後は現役世代や将来世代だけに痛みを押し付け」ないための「マクロ経済スライド」
年金を受給している高齢者に痛みがあるマクロ経済スライド
もらい逃げという言説ばかり信じられているのに、痛み分けの仕組みがあることはネットでは無視のようです。
こういうことをマスコミは報道しないで、年金不安をあおる話ばかりなのです。
現役世代の年金保険料も料率は上がっていません。
これも年々増加!とかネットでは言われていますが、平成29年で打ち止めです。もちろん料率ですので、自分の給与が上がったら保険料としては金額が上がりますが、「引き上げは終了」です。自分の給料アップのために金額が上がる話と混同してます。
厚生年金保険料率の引上げが終了します |報道発表資料|厚生労働省
年金の支給開始年齢も引き上げはされません。支給開始年齢と受給可能年齢(受給開始可能期間)との混同も目立ちます(そもそもマスコミは、その違いをわかっていないでしょう)。
他の先進国のような「保険料の引き上げ」や「支給開始年齢の引き上げ」は日本では現在、行っていないこと、しかも現在はマクロ経済スライドを導入していること(年金世代には影響あり)。
これらをネットでは信じられていません(年金が破綻するという営業トーク、ポジショントークは信じられやすいのに)。
マクロ経済スライドが機能していれば、世代間の公平性は大きな問題にならないのです。
マクロ経済スライドについては、さらに詳しく是枝委員が述べていますがここでは省略しておきます(議事録を見てください)。
最後に、若者世代からの委員としてたかまつなな氏は、
「私は年金制度が持続可能ではないとは考えていません。年金制度は持続可能なものでありますが、より持続可能なものにしていくという意味合いを込めて使わせてもらいました」
「将来不安が若者の中にあったり、それは年金として本来の意味を果たし切れているのかとか、広義の意味で国民は将来年金があるから安心して暮らせるということも含めて、年金制度が今だけではなく自分たちの現役世代だけでもなく、未来の子どもたちも含まれているという意味で使わせてもらいました」
この発言もわかります。マスコミは年金だけでなくコロナでも恐怖をあおっていましたが、
あまりにも年金不安をあおられている現状、年金制度の若者のイメージは非常に悪い。
その状況では、年金という安心材料になるべきはずなのに、これでは本来の意味を果たしきれているのか。
将来は年金があるから安心して暮らせる、と思っている人が若者世代にはほぼゼロではないのか、ということでしょう。
たかまつなな氏は高齢者世代に厳しいイメージがありましたが、ここでの発言では、
「ただ、高齢者の方の中でも貧困の人や年金だけでは生活が厳しい人がたくさんいまして、世代内格差ももちろんあるために幅広い可能性を考える必要がある」
ということも言っていたことは付け加えておきたいと思います。
その上での、若者を置いてけぼりにしないで、年金の議論に参加してもらう必要性、さらに年金制度の誤解があるならそれについては、「教育」の必要性も述べていました